定電流方式LEDテスターの製作

発端

最近、秋葉原などでよく中国製の安いLEDテスタを見かけるようになった。
ICソケットのようなところにLEDを挿せるようになっていて、挿す場所により電流が選べるというものだ。
安いし便利そうなので買ってみようと思ったが、何かが心に引っかかり、ちょっと躊躇した。
ネットで分解記事を探すと、どうやら9V電池と抵抗を組み合わせただけのものらしい。
ということは、そこに書いてある電流は電池電圧に大きく依存するということになる。
それが分かってしまったあとで、でも割り切って使えば便利かもしれない、安いし損はしないだろうと思い、何度か手にとって見たが、やっぱり何かが引っかかって踏ん切りがつかない。
そうこうするうちに買わないまま一年ぐらいが経過したが、夏休みで時間も余ってるし、自分で作ってみようという気になった。
免責事項
当製作記事により生じたいかなる損害も当方は一切責任を負いません。
自己責任でのご利用をお願いします。

構想

問題点の洗い出し

まず、中国製LEDテスタの気になる点を挙げると以下のようになる。
9V電池は手軽に高電圧が得られて便利なのだが、日本人としてはどうしても抵抗がある。
それに、電池はもうエネループしか使いたくない。ここは単3または単4電池1~2本にしたい。
また、簡易テスタと言えども、ある程度正確な電流を流したい。

概略仕様

電源回路の検討

電源回路は、エネループ単4×2本(2.4V)をHA7750Aで昇圧して5Vにする。
HA7750Aは負荷による出力電圧の変動が大きいが、安いし手軽なのでこれを使う。
電池1本&ジュールシーフも一瞬考えたが、定電圧を得るのが難しいと思い却下した。

定電流回路方式の検討

可変レギュレータLM317を使う方法

最初に考えたのはLM317による回路だが、これは電圧降下が大きいため5Vで使用すると白色LEDを点灯させることができない。また、LEDにはLM317の消費電流も流れてしまうため、誤差が大きくなる。

トランジスタによる定電流回路

次に考えたのはトランジスタによる定電流回路だが、トランジスタのQ2のVBEが基準となるため、素子のばらつきや温度特性などがあり、正確な電流を流すことはできない。

特殊なICを使用する方法

次に考えたのは、秋月電子で売っているLT3080という低損失可変レギュレータICを使った定電流回路だが、高いし、マイナーなICに依存した回路はあまり作りたくない。

オペアンプ+トランジスタの定電流シンク回路

最終的に決めたのはオペアンプ+トランジスタの定電流シンク回路で、電圧リファレンスICと組み合わせて電流を安定させることにした。

オペアンプの-入力の電流フィードバック抵抗R1の電圧降下が、+入力のリファレンス電圧と等しくなるような制御が働く。そのため、LEDに流れる電流はリファレンス電圧÷R1に保たれる。(厳密に言うとそこからQ1のベース電流Ibを引く必要があるが小さいので誤差の範囲内となる。)白色LEDを点灯させるための電圧を確保するため、R1による電圧降下はなるべく小さくしたい。ロータリースイッチでの電流選択する回路での抵抗値の設定しやすさなどを考え合わせ、240mVとした。
手持ちの関係上LM385-1.2を使用し、抵抗分圧して240mVのリファレンス電圧を作る。最終的に240mVが得られればいいので、試していないがTL431などでもいいと思う。
オペアンプは、5V単電源で動作するものでオフセットおよび温度ドリフトの小さいものを使用する。手持ちの関係でLT1112とLMC6482を試した。
トランジスタは手持ちの関係上、2SC1815GRを使用する。

ブレッドボードでの試作


ブレッドボードで試作し、電流値を測定した。
測定にはLEDの代わりに100Ω±0.1%の精密抵抗(1本150円!)と、精度0.5%の普通のテスター(KAISE KU-1133)を用いた。
測定結果は下図のような誤差特性となった。

一応ロータリースイッチの設定通りに電流が変化することは確認できたが、±1%の誤差の金属皮膜抵抗を使用しているにもかかわらず、誤差が大きくなってしまった。
また、LT1112は電流が途中でサチってしまった。データシートをみるとどうやら出力に直列に抵抗が入っており、そのため電流が制限されてしまうようだ。そのため、LMC6482で測定した。

誤差要因の分析

ブレッドボードでの試作結果を踏まえ、この回路の誤差要因を考えてみた。
(9)が電流誤差の主な要因で、接触抵抗を実測したところ、0.1~0.2Ω程度あるようだ。これだと、12Ωに対しては1%以上の誤差となってしまう。これを防ぐには半田付けするしかない。
(1),(3)はボリュームで調整すれば取り除くことができる。
(2),(5)は調整で取り除くことができないので、なるべく少なくなるような部品選択をするしかない。
(4)は調整できるオペアンプは存在するが、面倒なので最初からオフセットの小さいものを選択する。
(6)は誤差±1%の金属皮膜抵抗を抵抗を数本買って選別する。
(7)はhfeが大きいトランジスタを選択すれば影響を小さくできると思う。
(10),(11)は測定誤差だが、アマチュアが制作するには限界があり、テスタと精密抵抗のカタログ値の確度内でしか測定することはできない。

回路の見直し

最初は精度のいい抵抗さえ使えばそこそこよい精度で作れるだろうと思っていたが、思ったよりも誤差要因が多いので、リファレンス電圧の抵抗分圧のところで調整できるようにポテンショメータを入れた。
トランジスタはよりIbの影響がさらに少なくなるように、2SC1815BLと2SC3112を試したが、誤差に違いがなかったので、よりポピュラーな2SC1815BLを選択した。(いずれディスコンになるが。)
オペアンプは新日本無線の高精度で単電源でも使用できるNJM2119に変えてみたが、LMC6482との違いはなかった。しかし、カタログ値のよりよいNJM2119を選択した。

ユニバーサル基板での制作

ブレッドボードである程度動作確認できたので、接触抵抗の影響をなくすためユニバーサル基板で作成した。



組み上がってから同様にして誤差を測定したところ、下図のような誤差特性となった。

もっともよく使うであろう20mAで誤差を調整した。
ブレッドボードでの試作時より特性はよくなっており、誤差の幅はほぼ1%となっている。
しかし、依然として電流が大きくなるに従って誤差が大きくなる傾向がある。これは、ロータリースイッチの接点抵抗(カタログMax値:100mΩ)によるものと思われる。鉛フリー半田を使ったためなかなか半田がつかず、長時間コテを当てていたためこれよりもっと悪化しているかも知れない。しかし、この時点で当初の目標誤差(±2%以内)を達成しているのでこれ以上のことはやらないが、この回路定数でさらに誤差を小さくするためには接点抵抗のより小さいロータリースイッチを選択する必要がある。
なお、回路を抜本的に見直すなら、電源電圧を高く、電流帰還抵抗を大きくしてロータリースイッチの接触抵抗を無視できるようにすることもできる。

使用感等

手持ちのLEDをいろいろ試してみたが、LEDの性能の向上には驚かされる。数年前に買った高輝度でないLEDと、最近入手した高輝度LEDを比較すると、古い物は20mA流さないとまともに光らないが、最新の物は1mAでも結構明るく光り、5mA位流せばパイロットランプ程度の用途なら十分な明るさとなる。技術の進歩を感じた。

このテスタはLEDやダイオードの順方向電圧特性を測定することもできる。以下のグラフは日亜の雷神のIf-Vf特性を測定したもの。


今後の課題としては、出力電流を大きくしたい。(中国製テスタは150mAまで流せるので負けている。) ただし、現状の回路構成では大電流を流すと損失が大きいので、根本的に回路方式を見直す必要がある。

それから、後先考えずにユニバーサル基板に配置したため、使い勝手が悪くなっている。ロータリースイッチの位置が回しづらいところにあるのでもう少し考えればよかった。

改訂履歴

2011.08.06 初版

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